小島エピローグ
2008 - 2014 厚岸 北海道
祖母は小島という名前の島に生まれた。
北海道の東端にある、北海道全図にはでてこない、周囲わずか800mの島。
祖母が生まれたころは漁業が盛んで、漁師とその家族を合わせて100人もの人たちが住んでいたそうだ。
現在、訪れた島は寂寥としていた。
10人ほどの島民が昆布漁をするために夏の間だけ住んでいる。
彼らは船で沖にでて、海底から昆布を掻き揚げ、小さな船が昆布でいっぱいになると、島におろして丁寧に一枚一枚を地面に並べた。
夕方まえに昆布が乾くと、長さをそろえながらカットし、納屋にしまった。
海から運ばれた荷物を整理し、納屋に収めるまでの作業は、規則正しく淡々として、永遠に続いていくかのようだ。
朝の早い時間、島に霧が立ちこみ、強い日差しが差し込むと、島は圧倒的な光のなかにつつまれる。かすかに見える作業をする島民のシルエットは100年前の風景と変わることはない。
小島のとなりにすでに無人島になった、すこし大きな島があった。
断崖に囲まれたその島には、昔この国には戦争があったことを伝える廃墟が人知れず残されていた。
静かな島の暮らしと戦争の爪痕は、あまりにも不似合いで、対照的に感じられた。
同時に、昔も今と同じように、島の暮らしがあったのだろうと想像してみる。
かつてこの島に住んでいた人々の記憶は消えうせ、歴史だけが目に見えるかたちで残っている。
いつかこの小さな島から人がいなくなったとき、誰がこの島の風景を見るだろうか。
たしかにここに人が住んでいたというしるしを残しておこうと思う。
Kojima Epilogue
2008 - 2014 location: Akkeshi Hokkaido. Japan